交配実生(みしょう)苗とは
選んだ2つの品種(親株)の間で交配させ、その種を撒いて育てた苗のことです
反対にクローン苗は葉刺しや胴切りなどで遺伝子が変わらない状態で増やした苗です。栄養繁殖とも言われます
実生苗は私達人間の兄弟と同じように同じ人間( Homo sapiens)という種だけど一人一人顔や病気への耐性が違うように、エケベリアもまた、同じ親株から生まれたものでも葉の色や長さ、太さや厚み、病気への耐性などが違って生まれてきます
エケベリア交配実生苗の3つの魅力
魅力 1:「一つだけ」の多肉を創造するロマン
交配実生苗の最大の魅力は、葉刺しとは違って新しい遺伝子の多肉を自分の手で誕生させられる点です。
予測できない美しさ
交配実生苗は親株の「葉の形」「色合い」「フリルの有無」「粉の乗り方」といった様々な特徴がランダムに組み合わさります。交配するまでは想像もしなかったような、「親超え」の美しい個体が生まれることもあります。
育種家気分を味わえる
趣味家でもプロの育種家と同じように、理想の形を追い求めて親株を選び、交配を行い、たくさん生まれた実生苗の中から選抜種を見つけ出す作業には、大きな達成感と知的な楽しさがあります
「○○さんのオリジナル」として愛でる:
誰も持っていない、世界に一つだけの遺伝子を手に入れた瞬間、その苗に対する愛着は格別なものになります。
魅力 2 成長過程を最初から見守る深い愛着
交配して種まきからスタートすると、エケベリアが成長していく過程を全て見届けることができます。
感動的な発芽
砂のように小さな種からエケベリアの芽が出た瞬間は、何度経験してもいつも感動的です。
変化していく姿を楽しむ
発芽直後の小さな芽が、徐々にエケベリアらしいロゼットの形になり、季節を経て色彩を変化させながら、独自の形質を確立していく様子は、まるで子育てのように愛おしいものです。
育成技術の向上
デリケートな幼苗期を乗り越えるには、水やりや温度管理など、きめ細やかな管理が求められます。ただこの過程で得られる知識と経験は、大株を育てるのとは違って、より高度な多肉植物の育成技術を身につけることにつながります。
魅力 3: 季節や環境による新たな発見
小さな実生苗は親株よりも環境の変化に敏感、成長とともに移り変わる季節や環境によってその個性を表します。
環境と個性
同じ親から生まれた兄弟苗でも、日当たりや水やりの僅かな違いで、色や形が違ってくることがあります。どの環境で育てればその多肉のポテンシャルが最大限に引き出されるのかを探るのも、楽しみの一つです。
紅葉期の色変化の幅
特に秋から冬の紅葉期、選抜した苗が予測していなかった美しい色を発色することがある。この驚きと発見が連続するから、実生をやめられなくなるんですね。
つまり、交配実生苗の魅力は、「結果の予測の難しさ=一期一会の出会いの喜び」であり、「育て方の難しさ=無事に育った時の感動」なんです。
交配実生苗を交配親に使うメリット
1.優れた特徴を効率よく「積み重ねて固定」する方法
「丈夫さ」「美しいフリル」みたいな特徴を、生まれる子どもに受け継がせたい。
遺伝子固定
苗の特徴を決める遺伝子を「フリル」と「フリル」のように同じペアに揃えることで、その特徴が安定し、確実に子孫に現れるようになります。
良い遺伝子の積み重ね
「丈夫さ」「美しさ」など良い特徴をたくさん集めてくれた親株を使えば、その「良い特徴のセット」を、生まれた子株にまとめて一気に渡すことができます。こうすると良い遺伝子の「積み重ね」が早く進んで、目指す新品種を短期間で完成させられます
遺伝子をシャッフルする幅
交配種は、既に複数の原種の血筋を持っています。これをまた交配に使うと、遺伝子の組換えが起こる幅が増えて、親株の持つ爪や粉などの特徴が予測不能な組み合わせで出現しやすくなります。
新しい表現型を作る
原種だけでは生まれてこない新しい表現型、例えば、独特な葉色、ロゼットの形状、また環境に対しての耐性などが生まれる可能性が高まります。
こういったことを踏まえて交配に望んでいくとより戦略的にエケベリアの交配を楽しんでいくことができるのではないでしょうか
2. 真っ赤な遺伝子の蓄積と固定の効率化
ちょっと難しい話になるのでなんとなくで良いので聞いてください
育種においては、目標とする優れた形質(例:強健性、美しい葉のフリル、赤く染まるなど)を子孫に確実に伝えるには、その形質に関わる遺伝子をホモ接合型に近づけるか、優良な遺伝子をたくさん集積させる必要があります。
真っ赤な遺伝子の集積
例えば、真っ赤な交配実生苗は、既に育種家(趣味家さん)によって選抜され、複数の優良形質が組み込まれている可能性が高まります。このような選抜された株を再度交配に用いることで、次世代に「真っ赤に染まる遺伝子」を一気に伝達し、真っ赤に染まる遺伝子の「積み重ね」を効率的に行えます。
世代の短縮
交配を重ね、原種から目的の形質を一つずつ集積させていくよりも、交配種を使う方が、自分が目標とする形質を持つ新品種を作り込むまでの世代数を大幅に短縮できます。
3. 雑種強勢
雑種強勢の仕組み
これもまたちょっと難しい話になってしまいますが、ヘテロシスまたは雑種強勢とは、遺伝的に異なる系統(原種と交配種、または交配種と交配種、原種×原種)を交配した際に、その子世代が両親よりも成長速度、見た目の美しさや生命力などが優れる現象です。
例えば原種のシャビアナ×交配種の沙羅姫牡丹 の交配などは遺伝的に異なる交配と言えると思います
しかし コロラータ タパルパ×コロラータ タパルパ これはタパルパ地方という同じ地域に集合したコロラータ同士なので遺伝的に似通っている可能性が高いですから、雑種強勢の恩恵を受けづらくなるだろうと考えられるわけです
雑種強勢を利用する
交配種は、原種に比べて遺伝子のヘテロ接合度が高くなっている場合が多く、この雑種強勢を交配に利用すると強健な苗を効率よく作ることができます
強健な実生苗の作出
交配実生苗を親に使うことで、この雑種強勢が起こりやすくしやすくなり、結果として病害虫への耐性や環境ストレスへの適応力が高く、生育旺盛でロゼットが美しい実生苗が生まれやすくなります。
むらさき園の交配苗の特徴
むらさき園の交配苗は原種×原種のものが比較的多くなっているかと思います
個人的には交配を重ねて作り込んでいく事が生産販売とは別のささやかな楽しみになっています
しかしそのような苗をお披露目するには時間もかかりますので、この仕事を続けていくためのロマンとして、たとえ形にならなくても心の中に大切な支えになっています
むらさき園のメインラインナップ
むらさき園の交配苗のメインラインナップのコンセプトは家で言えばツーバイフォー工法のパーツを作ったり、プログラミングで言えばモジュールやフレームワークのようなものであり、スーパーで言えばあらかじめ皮をむいてカットして煮込んでおいた里芋パック と言ったような
味付けまでしてしまうと このコンセプトには沿わない
例えばカレーを作るのにコーヒーパウダーやビールなどを良かれと思って入れてもあとから抜くことは難しい
とは言えじゃがいもの皮を剥くのは面倒くさいのです
同じラウイ×コロラータの交配をしてもどんな形質のラウイを使うのか、どんな形質のコロラータを使うのかによっても出来上がる交配実生苗の顔は違ってきます。だから微妙な違いの苗がたくさんあってもそれを全部選べたらそれも楽しみの一つになるかと思うのです
価値は人それぞれです。ご自身で感じるままにお手に取って可愛がっていくことで愛情が生まれます。
その考えはむらさき園を運営するにあたっての本質にもなっているのかもしれません。
たくさんの原種×原種の交配実生苗の中から皆さんが交配の親としてたくさんのバリエーションの中から絵の具の色を選ぶかのように手に取って下さったら嬉しいです
ただ、むらさき園がロマンとして目指すのは命名に値するような品種の作出であることは間違いありません
むらさき園にある趣味家さん育種家さんの交配実生苗
むらさき園では2025年12月現在で交配実生を楽しまれる6名の方々の交配実生苗が並びます
韓国苗や一般普及種とはまた別のロマンの詰まった作品の数々を作出者の思いを感じながらぜひお手に取って感じて見てください。きっと新たなエケベリアの楽しみ方が増えるはずです
※韓国苗にも一般普及種にも間違いなく作出者のロマンが詰まっているということを付け加えなければなりません