ルンヨニー サンカルロス「原種」

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エケベリア・ルンヨニー(Echeveria runyonii)

原種概要

「ルンヨニー」は、白い粉をまとった葉が美しいエケベリアの原種です。メキシコ北東部のタマウリパス州にある山地、シエラ・サン・カルロスの岩壁に自生しています。野生の姿は崖にへばりつくように育ち、乾いた岩場の過酷な環境に適応した姿からは、園芸株とはまた違う力強さを感じられます。

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名前の由来と発表の経緯

この植物は、1920年代にテキサス州ブラウンズビルで栽培されていた株がRobert Runyon という人物によって採集され、植物学者 Rose に送られたことから歴史が始まります。1935年、E. Walther によって正式に学名が発表されました。
種小名 runyonii は、この採集者 Runyon 氏の名前にちなみます。発表当時は「自生地不詳の栽培株」でしたが、その後、野生集団がタマウリパスで見つかり、ようやく原産地が明らかになりました。

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葉姿と色彩の特徴

ロゼットは直径 8〜10cmほどで、さじ形〜倒披針形の葉を放射状に並べます。葉先は少し平らに切れたように見えたり、小さな突起があったりと、細部に個性があります。
葉の色は青白〜淡いピンクがかった白粉質で、光を浴びるほどにマットな美しさを増します。

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花の特徴

花茎は15〜20cmほどに伸び、先端に赤い花を咲かせます。花冠は五角形をした独特の形で、濃い赤色が印象的。白粉に包まれたロゼットと赤花のコントラストは、まさに野生の魅力を感じさせます。

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原産地と生態

場所:メキシコ・タマウリパス州 シエラ・サン・カルロス

環境:変成岩の垂直な崖に群生

気候:乾燥地帯に近い半砂漠性の植生帯

このような極端な環境に適応しているため、栽培下でも強光や乾燥に比較的耐えます。ただし、日本の湿潤な夏には蒸れやすいので、通風は必須です。

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園芸品種と変異

ルンヨニーといえば、やはり園芸で有名なのが**「トプシーターヴィー(‘Topsy Turvy’)」**です。葉が反り返って裏返るような形になる突然変異株で、アメリカで生まれ、ハンティントン植物園の M. Kimnach によって広められました。現在では園芸市場でルンヨニーよりもよく見かけるかもしれません。
ほかにも「Texas Rose」や「Lucita」などの園芸名で流通する株もあり、ルンヨニー系統はバリエーションが豊富です。

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交配と研究

‘Topsy Turvy’ を交配親にした園芸種は数多く、E. shaviana との交配から「Swan Lake」、E. laui との交配から「Exotic」など、人気の園芸ハイブリッドも生まれています。
また、研究では「葉の水滴が落ちにくい特殊な表面構造」として取り上げられるほど。科学的にも興味深い原種です。

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むらさき園からの栽培メモ

栽培していて特に困ったこともなく、昨今の日本の蒸し暑さにもじゅうぶんに耐えているように見えます。
木立ちして子株がたくさん出てきた頃にはかなり見応え出てくるでしょう

原種らしい端正な姿はもちろん、園芸品種とのつながりや歴史の面白さもあり、知れば知るほど奥行きのある存在です。

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> 参考文献

Royal Botanic Gardens, Kew. Plants of the World Online: Echeveria runyonii.

International Crassulaceae Network (ICN), “Echeveria runyonii” 解説ページ.

Juniper Level Botanic Garden Blog, “Topsy Turvy” (2024).