銀天女(ルスビー)「原種」rusbyi

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Graptopetalum rusbyi(グラプトペタルム・ルスビィ)

概要

グラプトペタルム・ルスビィは、アメリカ南西部からメキシコ北部にかけて分布する多肉植物です。小さなロゼットをいくつも重ねるように広がり、群生した姿は地面を覆うように広がります。葉は肉厚で、緑から紫、赤みを帯びるなど環境によって色合いが変化し、粉をまとったようなマットな質感も魅力です。

名前と起源

学名の種小名「rusbyi(ルスビィ)」は、アメリカの植物学者 ヘンリー・H・ラスビー(Henry Hurd Rusby, 1855–1940) に献名されたものです。
本種は同じくアメリカの植物学者 ジョセフ・N・ローズ(Joseph Nelson Rose, 1862–1928) によって記載されました。ローズはベンケイソウ科やサボテンの研究で知られ、グラプトペタルム属の分類にも大きく貢献しました。

自生地と環境

アメリカ・アリゾナ州のギラ川流域から、メキシコのソノラ州、シナロア州、チワワ州にかけて分布。

崖の割れ目や乾燥した渓谷、北向きの斜面など、比較的涼しい日陰の岩場に群生しています。

他のグラプトペタルム類(パラグアイエンセやベラムなど)と近い環境に見られ、この属が乾燥地帯に適応して進化したことを感じさせる種です。

形態の特徴

ロゼット径は2〜6cmほどで、栽培下では10cm近くまで大きくなることもあります。

葉は菱形から倒卵形で肉厚。季節や日照によって淡い緑から紫や赤みを帯び、美しいグラデーションを見せます。

春になると花茎を伸ばし、星形の花を咲かせます。花には赤や黄色の細かな斑点や縞模様が入り、可憐で特徴的です。

むらさき園メモ

日本では エケベリアとの属間交配の親として人気 のある種類です。
ただし交配の際には、雌しべと花粉を取り違えやすい ので注意が必要です。特に、開花直後は花粉がまだ開いておらず、見分けにくい時期があります。数日経つと花粉をつけた棒(雄しべ)が外側に開いてくるので、それを待ってから交配に使うのがおすすめです。
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むらさき園の見解

「Graptopetalum rusbyi , Culiacán」について

園芸では「Graptopetalum rusbyi , Culiacán」という名前で流通している株があります。むらさき園でも目にすることがありますが、よく知られる G. rusbyi と比べると少し雰囲気が違うように感じています。

注目したいのは「Culiacán(クリアカン/メキシコ・シナロア州)」という産地です。近年、この地域からは 「Graptopetalum sinaloensis」 という新しい種が報告されており(Vega ほか, Acta Botanica Mexicana, 2020)、花の形や葉のつき方などで G. rusbyi とは違いがあるとされています。

また、北米フローラ(Flora of North America)では、メキシコ産の “rusbyi” がしばしば別の種と混同されてきたことが記されており(FNA, Vol. 8, 2009)、シナロア州周辺の個体群には以前から分類の揺らぎがあるようです。

こうした背景を考えると、「G. rusbyi , Culiacán」として出回っている株の中には、実は G. sinaloensis に近い特徴を持つものも含まれているのではないか、とむらさき園では考えています。もちろんこれはあくまで見解のひとつであり、最終的な結論は今後の研究に委ねられるでしょう。

花が咲いたときに花びらの数や並び方を観察すると、より確かな手がかりになります。園芸名として「Culiacán 産 rusbyi」と呼ばれることもありますが、学術的な面では新しい発見や整理が進んでいることを知っておくと面白いかもしれません。

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参考文献

Vega R. et al. (2020) Graptopetalum sinaloensis (Crassulaceae), a new species from Sinaloa, Mexico. Acta Botanica Mexicana 127: 1–16.

Flora of North America Editorial Committee. (2009) Flora of North America North of Mexico, Vol. 8. Magnoliophyta: Paeoniaceae to Ericaceae.