エケベリアについて調べていると、ときどき「Walther(ヴァルター)」という名前が登場します。学名や解説の中にさりげなく出てくるので、「いったいこの人は誰なのだろう?」と不思議に思った方もいるのではないでしょうか。
実はこの「ヴァルター」とは、20世紀前半に活躍した植物学者 エドワード・エリック・ヴァルター(Edward Eric Walther, 1892–1959) のことを指します。彼はエケベリア研究の基礎を築いた人物であり、現在でも多肉植物の愛好家や研究者から名前を知られる存在なのです。
ドイツからアメリカへ渡った研究者
エリック・ヴァルターは1892年、ドイツのドレスデンに生まれました。青年期にアメリカへ移住し、サンフランシスコに根を下ろします。彼の人生を大きく変えたのは、カリフォルニアの豊かな自然環境と植物との出会いでした。
1917年からはゴールデンゲートパークで園芸師として働き、のちにストライビング植物園(現:サンフランシスコ植物園)の園長を務めるなど、地域の植物文化を支える存在となっていきます。園芸家としてのキャリアを積む中で、彼が特に魅了されたのが エケベリア属 でした。
エケベリア研究に捧げた生涯
1930年代以降、ヴァルターはエケベリア属の研究に本格的に取り組みます。メキシコを中心とした中南米に広がる多様な原種を記録し、その特徴や系統を整理しようとしました。
当時の多肉植物研究はまだ手探りの時代で、学名や分類が混乱していることも少なくありませんでした。ヴァルターはその混乱を整理しようと、何十年にもわたって膨大な資料をまとめ上げていきます。彼の仕事は未完成のままこの世を去ることになりましたが、死後に仲間の植物学者によって原稿が引き継がれ、モノグラフ(属全体をまとめた学術書)として出版されました。
つまり彼は、生前にすべてを成し遂げることはできなかったものの、研究の道筋を示し、次の世代へバトンを渡した人物だったのです。
名を残した「エケベリア・ヴァルテリ」
植物学の世界では、その人物の功績を称えて学名に名前を残すことがあります。
植物に名前が刻まれるというのは、研究者にとって大きな名誉です。それは単に新種を見つけたというだけでなく、その植物群に対して深い理解や貢献をした証として残されます。Waltherの名前を見かけたときには、そこに彼の情熱が込められているのだと感じてもらえるでしょう。
先人たちの積み重ねが今につながる
むらさき園でも多肉植物の交配や栽培を行っていると、こうした先人たちの研究がいかに大切であるかを実感します。もしヴァルターのようにエケベリアを体系的に整理しようとした人がいなければ、私たちが安心して原種や交配種を区別し、特徴を理解することは難しかったはずです。
また、学名の背後には人の物語があります。エケベリアの図鑑を眺めるだけでは見えない歴史が、名前の一つひとつに刻まれているのです。ヴァルターの歩んだ道は、その最たる例といえるでしょう。
まとめ
エケベリアを調べていると出てくる「ヴァルター」とは、エリック・ヴァルター博士という植物学者のこと。
- 1892年にドイツで生まれ、アメリカへ移住
- サンフランシスコ植物園で園芸師・園長を務める
- 1930年代以降、エケベリア属の研究に情熱を注ぐ
- 亡くなった後、彼の研究は仲間によって出版され、今も多肉植物学の基礎となっている