むらさき園日記

余白がある日ほど、見えるものがある

長野・山野草

昨日はハウスへ向かう時間が少し遅くなりました。
営業が終わってからスタッフに、お客様が何人か来てくださっていたことを聞きました。

せっかく時間をつくって足を運んでくださったのに、お会いできなかったのは少し残念でした。
植物はそこにあり続けます。でも、人との出会いは違います。数十分の違いで会えたり、会えなかったりする。

そんな偶然の積み重ねで、ご縁というものはできていくのでしょう。

昨日お越しくださった皆さま、本当にありがとうございました。またタイミングが合ったときは、植物の話でも、交配の話でも、はたまた全く多肉に関係のない話でも、ゆっくりお話しできたら嬉しいです。


理由のない買い物

帰り道、ふらっとダイソーへ寄りました。特に買う予定のものはありませんでした。店内を歩いていると、くすみカラーの付箋が目に留まります。

何に使うのか。今も決まっていません。それでも気付けば買っていました。
若い頃は、「必要だから買う」が当たり前でした。

でも最近は、「好きだから買う」という理由も悪くないと思っています。効率だけで考えれば無駄な買い物です。けれど人は、必要なものだけでは生きていけません。

好きなコーヒーカップ。部屋に飾る一枚の絵。そして多肉植物もそうです。生活に必要だからではなく、ただ好きだからそばに置いている。案外そういうものの方が、人生を豊かにしてくれる気がしていたのを思い出します。


音楽と遠回り

とうもろこしを作っていたむらさき園

そのあと、好きな音楽を流しながらけっこう遠回りをして帰りました。
運転している時間は不思議です。何かを考えようとしているわけではないのに、頭の中では勝手にいろいろなことが整理されていきます。新しい交配のこと。ブログのこと。これから先のむらさき園のこと。

答えを探しているときほど見つからないのに、景色を眺めながら走っていると、ふと輪郭だけが見えてくることがあります。効率だけを考えれば遠回りです。でも人生は、最短距離ばかり選んでいると見えなくなる景色もある気がしています。


そして今日は、また小さな命と向き合う

自宅前のハウスで趣味の多肉植物をしていた頃

日曜日の今日は、朝から交配実生苗の植え替えをしていました。久しぶりに長い時間ピンセットを握ると、その感触がどこか懐かしく感じます。

身体というのは不思議なもので、何年も繰り返してきたことは忘れたようでいて忘れていません。一本一本、小さな苗を植え替えながら、交配を始めた頃のことを思い出していました。

まだ右も左も分からず、とにかく夢中で植え替えをしていた頃。あれから随分時間が経ったはずなのに、ピンセットを持つ指先の感覚だけは、あの頃とあまり変わっていない気がします。

そんなことを考えているうちに、もう一つ思い出したことがありました。そういえば、自分は香りが好きだったなと。仕事柄、毎日土や植物の香りに囲まれています。だから仕事以外では、香水やフレグランスから少し遠ざかっていました。

でも最近、仕事以外の時間くらいは好きな香りをまとってみてもいいかもしれないと思うようになりました。頭に浮かんだのは、昔よく使っていたロクシタンのシア。ところが不思議なことに、その香りが思い出せません。

景色は思い出せる。その頃住んでいた場所も、乗っていた車も思い出せる。それなのに香りだけは出てこない。もしかしたらまだ残っているかもしれない。そう思って冷蔵庫を探してみると、奥の方から見つかりました。

蓋を開ければ、あぁそうだったよね。

飛騨高山のコーヒーショップ

あの頃よく聴いていた音楽。車窓から見ていた景色。その頃考えていたこと。当時の空気感まで思い出せそうなくらい鮮明でした。写真を見てもここまで思い出せないかもしれません。香りは、映像よりも深い場所に記憶をしまっているのでしょうか。

植物にも香りがあります。雨上がりのハウス。乾いた土。水やりをした直後の空気。毎日その中にいると気付かなくなりますが、何年か後に同じ香りを嗅いだら、今日という日も思い出すのかもしれません。

人は時間を生きているようで、実は記憶を生きているのかもしれない。

そんなことを考えました。


「好き」は育っていく

石垣の天の川

最近、お客様を見ていて嬉しく思うことがあります。「むらさき園で初めて多肉植物を好きになりました。」「ここで交配という世界を知りました。」そんな言葉をいただくことが少しずつ増えてきました。

最初は一鉢だけ選んで帰られた方が、次に来られたときには原種の名前を覚え、交配式を読み、自分でも交配を始めている。植物は何も変わっていません。変わったのは、その人の見え方です。知れば知るほど世界は広がります。

昨日までただ可愛いと思っていた一鉢が、親の組み合わせを知り、自生地を知り、歴史を知ることで、まったく違う存在になる。趣味というのは、物を集めることではなく、世界の見え方を変えていくことなのかもしれません。

もし、むらさき園がそんなきっかけになれているのだとしたら。それは苗を販売すること以上に嬉しいことです。植物は土の上で育ちます。そして「好き」という気持ちは、人との出会いや知る喜びの中で育っていく。

そう考えると、この仕事は植物を育てる仕事であり、人の好奇心を育てる仕事でもあるのでしょう。それはきっと、むらさき園冥利に尽きることなのだと思います。

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